オイルロード

巨大タンカーの航海Ⅲ

大海原を走る

KYO-EIは今、大海原――インド洋を全速力で東進している。灼熱のペルシャ湾はすでに過ぎ、"魔の海峡"マラッカ海峡まではまだ数日の余裕がある。乗組員にとって、ラスタヌラを出港してからはじめて訪れる気の休まる日々である。とはいえ、航海中の船では完全に気を抜ける時間というものは存在しない。24時間走り続けているわけだから、いかに自動航法装置が発達してきたとはいえ人間による監視は怠ることができない。また船、とくに巨大タンカーにはさまざまな危険要素があり、事故を未然に防ぐために瞬間瞬間に気を配っていなければならないからである。

タンカーの生活

船の旅は独自の魅力に満ちている。

陸から隔絶され、何かと不自由な生活が想像されはするものの、毎日広い海を眺めながらすごせるというところが陸の人間を魅了するのだろうか。ここで実際にKYO-EIでの暮らしぶりを見てみることにしよう 。

勤務時間と休日

正月のおせち料理

航海の間、乗組員は基本的に日曜日が休みとなる。しかし、たとえば、当直のある運航チーム要員で交代要員が確保されてない場合、休日はなしとなる。

このように書くと本船の生活は非人間的なもののように思えるかもしれない。しかしタンカーに限らず船舶では昼夜すら分かたぬ勤務が続けられており、まして本船では原油という、一歩取り扱いを間違えれば大変な事態が生ずる危険物を満載して航海しているわけだから、ある意味では"宿命"とでも言えるかもしれない。

福利厚生用ジム

下船すれば埋め合わせるように長い有給休暇があり、それこそ船員の醍醐味だと主張する人もいる。また、船上においてももちろん働く時間は原則1日8時間で、それ以外の時間は自由。陸と違って船には夜になると人を誘惑するネオンもないから、「休みがなくとも思いのほか身体は休まるのだ」という説もある。

船では通勤というそれだけで人を疲れさせる行為がなく、起きて階段を昇るか降りるかすればそこが職場である。当直などがあるため勤務時間は不規則になるものの、陸の人間から見ればこのメリットは大きい。 時間をうまく使えば1日の3分の2近くは確実に自由時間となるのだ。

近代的な居住設備

船長公室の接客ソファ

それはさておき、タンカーの基本的生活をKYO-EIの住環境をみることで想像してみよう。

船の住環境というと、一昔前までは狭い空間を何かとやり繰りした、狭・遠・高ならぬ狭・揺(揺れる)・騒(エンジンの音でうるさい)の代物であった。しかし最近では、ホテルとまではいかないものの、なかなか豪華な船室をもつものも増えてきている。

士官サロン

本船の乗組員用船室もそのすべてが個室。しかもセミダブルベッドとも見えるベッド、衣装ダンス、冷蔵庫、デスクが備わり、トイレ・シャワー付き。船長や機関長室にはバスタブもついている。大都市の民間アパートよりはるかに広く住み易そうな部屋となっている。長く陸を離れて緊張に満ちた任務を果たす人々には当然の設備かもしれない。ただしこれは本船のような巨大船では横幅が極端に広くなり、同時に、船橋を船後部に作るようになったため見晴らしを確保する都合上ブリッジの高層化が図られ、空間に余裕が生まれたから可能になったことでもある。