オイルロード

巨大タンカーの航海Ⅰ

炎熱のペルシャ湾

日本から中東ペルシャ湾への往航では、タンカーは貨物タンクは空の状態で走る。KYO-EIもまた例外ではない。積んでいるのは吃水を確保するための海水バラストのみである(バラストを積まないと、船体が浮かび上がってスクリューの力を水に伝えにくいばかりか、風や波の影響が強くなり走りにくい)。この往航にも往航なりの苦労があるが、われわれはタンカーとその乗組員が本格稼動する、復航の旅を追ってみることにしよう。

スタート地点はラスタヌラ港である。

ラスタヌラ - 原油を積み込む

一点係留ブイ(SBM)

ラスタヌラ(Ras Tanura)は、中東最大の産油国サウジアラビアの著名な石油積み出し港である。岬を意味する"Ras"の言葉どおり、この港はペルシャ湾西岸にある長さ約4キロ幅800メートルほどの小半島の突端に位置している。



この港はサウジアラムコ社(The Saudi Arabian Oil Company)の石油積み出し港で、南北2つの積み荷桟橋とVLCCが着桟できるシーアイランド・バースを有し、原油および各種精製油、LPGを積み込むことが出来る。ペルシャ湾に数ある港のなかでも、荷役・係船設備のいずれも優秀との評価を得ているという。なお、厳格なイスラム教の国らしく、アルコール類およびイスラムの教義に適さない書画・物品の輸入は禁止されているから注意を要する。

ラスタヌラ係留図

では、いよいよ入港して原油積み込みの開始だ。もっとも、入港する前に現地代理店と交信して積荷計画(入港時間、積み荷種類、数量など)の確認、入港後にも検疫・タンク内の検査などさまざまな作業と手続きがある。積み込みはこれらをすべて終えてからようやく可能になるという次第。

原油の積み込みは船体を桟橋に着桟後、桟橋にある積み込み用パイプ(チクサンアーム)に接続して行われる。パイプを通して船に油を送る原動力になるのは、積み荷の場合には陸上の送油ポンプである(揚げ荷、つまり船からおろす場合には逆に船の送油ポンプとなる)。ポンプの能力は1時間に5000~1万トンといったところなので、KYO-EIの全タンクを満杯にするには一昼夜以上かかることになる。

陸上から油をどんどん送り込まれている間、乗組員は座って煙草でもくわえていれば良いかというと、まったくそんなことはない。第一タンカー内では煙草は安全のためごく一部の喫煙所でしか吸うことはできないし、油漏れの監視やタンク内の量のチェックなど、するべきことは数多い。

最も神経を使うのは「積み切り」といってタンク内に過不足なく油を積む、最終段階の作業だ。各タンクの油量に大きな片よりがあると船が傾き、またタンクが一杯になっても油を受け入れつづければ大きな油漏れ事故につながる。

荷役書類の一部

すべてのタンクに原油を積みきったら油量を計測する。ただし、実際取引上で用いられるのは、陸上で送油時に計測された油量であることも多い。その結果は油量とともに書類に作成され、出荷主と本船船長がサインする。船荷証券 (Bill Of Lading,B/Lという)、アレージ・レポートとタイム・シートなどと呼ばれるものだ。サインが終わったら、出港準備完了。
もっとも最近では、こうした手続きは出港後にEメールでやり取りされることが多い。お互いの計測結果が違った場合に、必要になる異議の申し立て(Protest)もEメールで良い。 これを、EDP(Early Departure Procedure)システムという。運行能率向上のための事務手続き簡素化である。

出港──エンジンと推進力

メインエンジン

原油を満載したオイルロード1万キロの旅は、ラスタヌラからの出港──4000~6000馬力級の曳き船3隻による離桟から始まる。PILOT(水先案内人)のきょう導の元、シーアイランドから離桟した本船は針路を北へ向け、出港水路へ向かう。
沖合へ出ると、いよいよKYO-EIの主機関「MAN-B&W 7G80ME-C 9.2型 ディーゼルエンジン 36,135馬力」のうなりが高まる。これからペルシャ湾沿岸を進み、ホルムズ海峡を脱け、まったくどこにも立ち寄らずに、一路日本を目指すわけである。